厭離穢土欣求浄土の意味を考える

阿弥陀如来

大河ドラマ「どうする家康」の第2回「兎と狼」において、徳川家康が大樹寺に逃げ込み、松平家の先祖の墓前で自害しようとする際、厭離穢土 欣求浄土(おんりえど ごんぐじょうど)と唱える場面がありました。

家康はその意味を
(1) 汚れたこの世を離れ、極楽浄土へ行け
と解釈しましたが、榊原康政はそうではなく、
(2) 汚れたこの世をこそ、浄土にすることを目指せ
と解釈しました。
本記事では、厭離穢土欣求浄土の意味について、考察したいと思います。

浄土宗の目的

大樹寺は浄土宗のお寺であり、徳川家康も浄土宗を信仰していましたので、厭離穢土欣求浄土は浄土宗の言葉です。浄土宗とは何かを書く前に、仏教とは何かについて書きたいと思います。

寺院には初詣ぐらいしか訪れないという人も少なくないと思いますので、そのような人にとって、仏教の仏様とはお願い事を叶えてくれる存在かもしれません。しかし、仏教とは
・仏になるための教え
つまり、お釈迦様のような仏になることを目指す教えなのです。そのためには厳しい修行をしなければなりませんが、この世(現世)は苦が多く、修行をすることが困難なので、来世は阿弥陀如来のいらっしゃる極楽浄土に生まれ変わり、なんの心配もなく、仏になるための修行をすることを望むのが浄土宗です。

すなわち、浄土宗とは現世で仏になることは諦め、来世において、阿弥陀如来の極楽浄土で仏になることを目指す教えなのです。

Wikipediaの厭離穢土のページにおいて、

「厭離穢土 欣求浄土」の意味は、「現実の世の中は、穢れた世界であるからこの世界を厭い離れ、次生において清浄な仏の国土に生まれることを願い求めること」とされる。

と記載されています。

つまり、厭離穢土欣求浄土は浄土宗の目的を端的に表現した言葉であり、家康の解釈した
(1) 汚れたこの世を離れ、極楽浄土へ行け
が本来は正しいとなります。

現代人が共感できる解釈

では、なぜ
(2) 汚れたこの世をこそ、浄土にすることを目指せ
という解釈があるのでしょうか。それはひとえに現代人が共感できる解釈だからだと考えます。

現代において、来世で極楽浄土へ生まれ変わることを意識して日々生活している人はごく少数だと思いますので、多くの人にとって、厭離穢土欣求浄土の本来の意味を聞いても、ピンと来ない場合がほとんどだと思います。
一方、「苦が多い現世を極楽浄土にしよう」は多くの人が共感できるスローガンであり、こちらの解釈のほうが現代においては主流になっていると考えます。
※ 時代によって解釈を変えるのは悪いことだと思いません。不易流行という言葉があるように、守るべき箇所は守り、変えるべき箇所は変えるべきです。

また、徳川家康は厭離穢土欣求浄土を馬印に用いており、使用した理由はシンプルに「死を恐れずに戦え」というメッセージを配下に伝えたかったからだと思います(Wikipediaの厭離穢土のページにおける2つ目の説に近い)。

しかし、現代人は徳川家康が最終的に天下統一を成し遂げたことを知っており、無意識に「厭離穢土欣求浄土の馬印には深い意味があったに違いない」と思っています。よって、「家康は他の戦国大名とは異なり、戦いのない、極楽浄土のような世界を実現したいと切望していた」という考えに共感、納得するため、厭離穢土欣求浄土に2つ目のような解釈がなされるのだと考えます。

最後に

厭離穢土欣求浄土に関して、大河ドラマで示された2つの解釈について書きましたが、どちらかが正しく、正しくないという話ではありません。

「杖言葉」という考えがあります。杖とは歩行の助けとして手に持つ棒のことであり、物理的に身体を支えてくれるものですが、現代においては、物理的と同じぐらい精神的に身体を支えてくれる杖が必要です。杖言葉とは心が挫けそうになった時、精神的に身体を支えてくれる言葉のことです。
徳川家康が自刃しようとした時に厭離穢土欣求浄土を聞いて自刃を止めたならば、厭離穢土欣求浄土は家康にとっての杖言葉だったと言えます。戦国時代好きの方は戦国武将の言葉などを自身の杖言葉としてはいかがでしょうか(私自身は家康の遺訓「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」が好きです)。

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