北条氏 禄寿応穏と書かれた虎の印における虎の意味

虎(アイキャッチ画像)

戦国時代、小田原を本拠地として関東一円を支配した北条氏は、2代目の北条氏綱から禄寿応穏(ろくじゅおうおん)と書かれた虎の印を使用していました。

禄寿応穏とは「領民の禄(財産)と寿(生命)は応(まさ)に穏やかなるべし」を意味し、善政を敷いた北条氏に相応しい言葉だといえます。では、虎にはどのような意味があるのでしょうか。現代人の意識では、虎は百獣の王であるライオンと並ぶ強い動物ですので、虎が北条氏で、強い北条氏が領民の財産と生命を守ることを表していると思えます。

それでは、中世の人々には虎はどういうイメージだったのでしょうか。仏教美術から考えると、例えば、5月に京都・長楽寺へ准胝観音像の御開帳で訪れた時、厨子に
・鳳凰
・龍
・獅子
・象
が刻まれていました。鳳凰、龍は想像上の生き物、獅子(ライオン)、象は実在の動物ですが、獅子は文殊菩薩の乗り物、象は普賢菩薩の乗り物ということで、これらは間違いなく聖獣です。一方、虎は虎薬師や毘沙門天の眷属として登場しますが、聖獣としては考えられていなかったと思います。しかし、東西南北を守護する青龍、朱雀、白虎、玄武の四神の一体として白虎がいますので、特別な存在ではあったと思います。

虎に関して、興味深い話が臨黄ネットに記載されていました。

アジア大陸の広域に生存する虎も、猛獣ですが、その数5千頭から7千頭と、将来絶滅が心配されています。虎は、象には勝てません。群をなした象には、歯が立ちません。そこで逃げこむ処が竹薮の中です。巨体は竹薮に入られず、また、竹薮に入ると、象牙にヒビが入ります。

その昔、杣人(そまびと)は、象牙のパイプを竹薮へは持って入らなかったということです。青竹に象牙は禁物です。従って、虎には竹薮が何よりの安全地帯であり、依所であります。

つまり、竹藪の中は虎にとって安全な場所ということになり、例えば、部屋に竹と虎を描くことにより、「この場所は安心できる場所ですよ」というメッセージを表していることになります。二条城の二の丸御殿や名古屋城の本丸御殿などの入り口に竹と虎の絵が描かれている理由が正にそれですね。

北条氏の虎の印に刻まれている虎はうずくまっている姿です。強い北条氏が領民の財産と生命を守ることを表しているならば、口を大きく開けて吠えている姿など力強い姿にするはずです。うずくまっているのは安全地帯に居るので安心して、リラックスしている姿と考えられないでしょうか。つまり、虎の印の虎は「北条氏の領地は領民が安心して暮らせる場所である」というメッセージだと考えます。

まとめると
禄寿応穏・・・「禄(財産)と寿(生命)が応(まさ)に穏やかである」
虎・・・「北条氏の領地は領民が安心して暮らせる場所である」
と同じことを意味しているのだと思います。
※中世は文字が読めない人も多かったので、禄寿応穏という文字だけでなく、うずくまった虎という絵を付けたと考えると、同じことを意味しているのは必然だと考えられます。

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