二条城 二の丸御殿 障壁画に描かれている虎の本当の意味

二条城 二の丸御殿

2020年7月24日にNHKで「日本最強の城スペシャル第6弾」が放送されました。お城好きにとって「日本最強の城スペシャル」はとても楽しい番組で、放送を楽しみにしていました。今回の第6弾では
・フォトジェニックな城編として、二条城、宇和島城
・守りの仕掛けがユニークな城編として、小田原城、知覧城
・デジタルで楽しむ英雄の城編として、福岡城、仙台城
が紹介され、二条城が日本最強の城に選ばれました。

個人的には小田原城を推していましたが、二条城が選ばれるのは妥当かなと思いました。そのような二条城に関する説明で気になる箇所がありました。

描かれている虎の意味

番組内で「二条城 二の丸御殿 障壁画には、なぜ虎が描かれているのでしょうか?」という質問があり、
「虎は力の象徴であり、城を守る聖獣である。将軍に会いに来た諸大名は虎が描かれている部屋で一旦待つ。その時、周りの襖の絵が全て虎なので、威圧感を感じる」、つまり、将軍に会いに来た人物に威圧感を与えるために障壁画に虎が描かれているという旨の回答がありました。

障壁画に描かれている虎の意味は色々な説があると思いますが、まず一番に挙がるのが上記のような説明です。二条城のホームページにも、

遠待は来殿者が控える場所で、二の丸御殿最大の建物です。来殿者が最初に立ち入るこれらの部屋は、襖や壁の絵から「虎の間」とも呼ばれています。獰猛な虎の絵や壮大な空間は徳川家の権力の大きさを実感させたと思われます。

とあります。しかし、私はこの説には同意できません。

まず、描かれている虎が少しも怖い表情をしていないことです。相手を威嚇している虎が描かれた絵を見たことがありますが、全然違います。また描かれている姿もとてもリラックスしているように見えます。

次に、幕府の主な役割は争いごとを仲裁することです。自分を信頼して会いに来た人を威圧する理由は全くありません。相手がこちらに会いに来るよう仕向けるため、威圧することはあると思いますが、わざわざ会いに来た人を会う前に威圧するメリットはないと思います。「よく来てくれた」と、まずは温かく迎えるのではないでしょうか。

また、会いに来た人の立場から考えると、その人は相手の城の中に入る訳ですから、相当緊張していると思います。相手の城の中で騙されて殺害された例はいくつもあります。そのように極度に緊張している人を威圧するのは逆効果ではないでしょうか。

では、虎はどういう意味でしょうか。そのヒントはこのブログで何度か紹介している臨黄ネットに掲載されている「牡丹に唐獅子 竹に虎」にあります。そこには以下のように記載されています。

虎は、象には勝てません。群をなした象には、歯が立ちません。そこで逃げこむ処が竹薮の中です。巨体は竹薮に入られず、また、竹薮に入ると、象牙にヒビが入ります。
その昔、杣人そまびとは、象牙のパイプを竹薮へは持って入らなかったということです。青竹に象牙は禁物です。従って、虎には竹薮が何よりの安全地帯であり、依所であります
「竹に虎」、三百数十年の時を越え、
「あなたにとって、依所となる安住の地は何処ですか。」
と問いかけます。

つまり、障壁画に虎と竹を描くことにより、部屋を竹やぶの中に見立て、「ここは安全な場所ですよ。あなたに危害を加える気はありません。どうぞ、リラックスしてください」と会いに来た人にメッセージを送っているのだと考えます。

番組内で虎と共に豹(ヒョウ)が一緒に描かれている理由として、「昔の人は虎と豹は同じ動物のオスとメスだと思っていたので、夫婦と思って描いた」とありましたが、威圧するつもりならば、虎と豹の夫婦を描くことはないと思います。虎と豹を描いたのは「虎も豹と一緒にいてくつろいでいますから、あなたもリラックスしてください」というメッセージを伝えたいからだと思います。

上記で紹介した「牡丹に唐獅子 竹に虎」には、牡丹に唐獅子のことも記載されており、牡丹に唐獅子は二条城の唐門にも装飾されています。唐獅子(ライオン)を見て、「会いに来た人を威圧しようとしている」と考える人はいるでしょうか。いないと思います。それは、「獅子身中の虫」ということわざがあり、牡丹に唐獅子の意味が現在でも正しく知られているからです。一方、同じ意味を持つ「竹に虎」はその意味が忘れられ、誤った説が流布していると感じます。

最後に

多くの人に実際に二条城を訪問して、二の丸御殿の虎の絵を見て欲しいと思います。そして、何を感じるか。自分自身で確かめてみてください。

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